中国の新興EVメーカーを調べると、BYD、NIO、XPENG、Xiaomiと並んで頻繁に登場するのがLi Auto(理想汽車、中国語名は理想汽车)です。

Li Autoは長い間、純電気自動車だけを作る会社ではありませんでした。バッテリーでモーターを動かしながら、電池が減るとガソリンエンジンで発電するレンジエクステンダーEVを主力にして、中国の家族が抱えていた充電と長距離移動への不安を減らしてきました。

もう一つの特徴は、顧客を「家族」に絞ったことです。広い後席、3列シート、冷蔵庫、大型ディスプレイ、車内音声アシスタント、柔らかな乗り心地を組み合わせ、車を移動するリビングとして提案しました。

この戦略でLシリーズは大きく売れましたが、現在は転換期にあります。2025年の年間納車台数は40万6,343台と前年から減少。一方、同年に投入した純電気SUV「i6」は、2026年3月以降、月間2万台以上を継続しています。

この記事では、Li Autoがどのように始まった会社なのか、中国でどれほど売れているのか、増程式のLシリーズと純電気のiシリーズは何が違うのか、主力車種の特徴、評判と注意点を整理します。

まず知りたいこと回答
Li Autoとは中国・北京で生まれた家族向けスマートEVメーカー
創業2015年7月
創業者李想(Li Xiang)氏
得意分野大型SUV、レンジエクステンダー、車内空間、AI
2025年の納車台数406,343台
2026年1~5月の納車台数162,577台
現在の主力L6、L9、i6、i8、MEGA
日本での正規販売2026年6月時点で未実施

Li Autoは2015年に李想氏が創業した

Li Autoは2015年7月1日、李想氏によって設立されました。本社は北京、生産拠点は江蘇省常州にあります。

李想氏はLi Auto以前にも、ITメディア事業を立ち上げ、自動車情報サイト「汽車之家(Autohome)」を成長させた起業家です。自動車を作る前から、購入者がどのように車を比較し、どこに不満を感じるのかを見てきた人物でした。

最初の量産車「理想ONE」は2018年10月に発表され、2019年12月に納車を開始しました。ONEは6人乗りの大型SUVで、電気自動車の静かな走行感と、ガソリンを使って長距離を走れる安心感を両立。Li Autoの方向性を一台で決めた製品です。

会社は2020年7月に米国NASDAQ、2021年8月に香港証券取引所へ上場しました。2022年からL9、L8、L7、2024年にL6を投入し、価格と大きさが異なる家族向けSUVをそろえています。

新型Li L9 2026年5月に発売された新型L9。画像: 理想汽車公式サイト

成功の理由は「増程式」を家族へ分かりやすく売ったこと

Li AutoのLシリーズは、レンジエクステンダーEVです。中国語では「増程式」と呼ばれます。

車輪を直接駆動するのは基本的に電気モーターです。日常は充電した電力で走り、バッテリー残量が減ると車載エンジンが発電機として働きます。一般的なハイブリッド車に似ていますが、運転感覚と商品設計は電気自動車に近いものです。

この方式には明確な利点があります。

  • 自宅や職場で充電できれば、近距離は電気だけで走れる
  • 長距離ではガソリン給油を利用できる
  • 充電器の少ない地域でも移動計画を立てやすい
  • 大型SUVに必要な航続距離と暖房性能を確保しやすい

一方、エンジン、燃料タンク、バッテリー、モーターを積むため、構造は複雑で車体も重くなります。高速道路で発電を続ける条件では、純粋なEVや効率の良いハイブリッド車より燃料消費が増える場合もあります。

Li Autoが上手だったのは、技術方式そのものより、「平日は電気、旅行ではガソリンも使える」という家族に分かりやすい価値へ変換したことです。

中国で急成長したが、2025年は販売が減少した

Li Autoの年間納車台数は、2024年に50万508台へ達しました。中国の新興EVメーカーとして非常に速い成長でした。

しかし2025年は40万6,343台となり、前年比18.8%減。売上高は1,123億元で前年比22.3%減、最終利益は11億元で85.8%減少しました。

理由は一つではありません。中国の20万~50万元市場で競合車が急増したこと、Lシリーズの商品更新を待つ購入者が増えたこと、純電気モデルへの移行費用、車種構成の変化などが重なっています。

2026年第1四半期の納車は9万5,142台で、前年同期比2.5%増でした。一方、売上高は前年同期比11.4%減の230億元、最終損益は23億元の赤字。車両利益率も6.1%まで低下し、販売台数だけでは判断できない厳しい局面に入っています。

2026年1~5月の納車は16万2,577台です。5月単月は3万3,350台で、累計納車は170万2,792台に達しました。

現在の明るい材料はi6です。2026年3月から5月まで、月間納車が継続して2万台を超えています。Lシリーズ中心だった会社が、純電気SUVでも量販モデルを作れる可能性を示しました。

L6:Li Autoを20万元台へ広げた量販SUV

L6は5人乗りの中大型レンジエクステンダーSUVです。2025年のアップデートモデルは24万9,800元から27万9,800元で、Li Autoの中では最も手頃なLシリーズです。

Li L6 若い家族を想定した5人乗りSUV、L6。画像: 理想汽車公式サイト

全長は約4.9mで、日本では十分に大きな車ですが、中国のLシリーズでは入門モデルです。2列5人乗りにすることで、後席と荷室を広く使えるようにしています。

2024年の発売から約1年で累計納車は約25万台に達したと同社は発表しました。Li Autoが30万元以上の高級大型SUVメーカーから、20万元台でも販売規模を作れるブランドへ変わるきっかけになった車です。

L6の魅力は、L9ほど大きな3列車を必要としない家庭でも、増程式、四輪駆動、車内AI、運転支援、快適装備を利用できることです。

L7・L8・L9:家族の人数と価格で選ぶLシリーズ

Lシリーズは、数字が大きいほど車格と価格が上がる構成で成長してきました。

L7は広い2列目を持つ5人乗り、L8は6人乗り、L9は最上級の6人乗りとして知られてきました。ただし、2026年は製品構成を更新しています。新型L9は5月に発売済みで、新型L8は5人乗りのフラッグシップSUVとして6月下旬に発表される予定です。

新型Li L8 2026年6月下旬の正式発表が予定される新型L8。画像: 理想汽車公式サイト

新型L8は、72.7kWhの5C対応バッテリーとCLTC純電航続距離430kmを公称します。日常だけでなく、省内の移動を電気だけで行うことを意識した大型バッテリーです。上位仕様では後輪操舵や800Vアクティブサスペンションも訴求されています。

L9は全長約5.2mの大型SUVで、新型はUltraが45万9,800元、Livisが50万9,800元です。72.7kWhのバッテリーを搭載し、CLTC総合航続距離は1,650km。Livisには800Vアクティブサスペンション、ステア・バイ・ワイヤ、後輪操舵、機械式ブレーキを電子制御するEMB、自社開発チップなどを採用します。

L9は単に大きく豪華なSUVではありません。Li Autoが今後重視するエンボディードAI(中国語では「具身智能」)、つまり車が周囲を認識し、利用者の意図を理解して行動するという構想を見せる最上位モデルです。

i6:純電気への転換を支える新しい量販車

i6は2025年9月に発売された5人乗りの純電気SUVです。中国での発売価格は24万9,800元でした。

Li i6 独特の低いフロントと長いルーフを持つ純電気SUV、i6。画像: 理想汽車公式サイト

L6と価格は近いものの、i6には発電用エンジンがありません。5C対応のリン酸鉄リチウムイオン電池を搭載し、CLTC航続距離は最大720km。公式値では対応する急速充電器を使い、10分で500km分を充電できるとしています。

外観は一般的な箱型SUVよりもルーフを長く、フロントを低くした独特の形です。空気抵抗、室内空間、視界を両立するためのデザインですが、従来のLシリーズより好みが分かれます。

Li i6の運転席 大型ディスプレイと音声操作を中心にしたi6の運転席。画像: 理想汽車公式サイト

i6が重要なのはスペック以上に販売実績です。2026年3月には月間2万4,000台を超え、その後も月間2万台以上を維持しました。充電網への投資と低めの価格を組み合わせ、Li Autoが純電気SUV市場へ本格的に入る足場になっています。

i8:6人で長距離を走る純電気SUV

i8は2025年7月に発売された、6人乗りの大型純電気SUVです。価格は33万9,800元です。

Li i8 3列6人乗りの純電気SUV、i8。画像: 理想汽車公式サイト

97.8kWhの三元系5Cバッテリー、CLTC航続距離720km、前後モーターによる四輪駆動を採用。公式値では10分で500km分を充電し、15分で充電を完了できるとしています。

航続距離と充電時間はいずれも規定条件での公称値です。実際の数値は気温、充電器、バッテリー残量、速度、空調の使用状況によって変わります。

2列目のゼログラビティシート、冷温庫、後席エンターテインメント、大型サンルーフなど、Lシリーズで評価された家族向け装備を純電気SUVへ移したモデルです。

i6より広く快適ですが、価格も車体も大きくなります。自宅充電と長距離ルート上の急速充電器を利用できる家庭に向いた車です。

MEGA:賛否を集めた純電気MPV

MEGAはLi Auto初の純電気自動車として、2024年に発売された7人乗り大型MPVです。2026年6月時点の公式サイトでは52万9,800元から55万9,800元の価格帯が案内されています。

Li MEGA 空気抵抗を意識した流線形ボディを持つ大型MPV、MEGA。画像: 理想汽車公式サイト

高速鉄道を思わせる流線形の外観、広い3列シート、両側スライドドア、5C急速充電が特徴です。一般的な高級MPVとは大きく異なるデザインで、一目でMEGAと分かります。

発売当初は形への評価が分かれ、販売計画も順調ではありませんでした。その後、後席の使い方を改善したMEGA Homeを投入し、同社発表では2025年夏に中国の50万元以上MPV市場で存在感を高めました。

MEGAはLi Autoの技術力を示した一方、ブランドが得意としていたSUVと増程式から離れる難しさも示した製品です。2025年にはリコール関連の見積費用も利益率へ影響しました。

Li Autoの評判が良い理由

中国でLi Autoが高く評価されてきた理由は、車の使い方が非常に明確だからです。

  • 後席と3列目を含む家族全員の快適性を重視している
  • 増程式により、充電設備が少ない地域でも遠出しやすい
  • 冷温庫、大型画面、テーブル、マッサージなど車内装備が豊富
  • 「理想同学」による音声操作が分かりやすい
  • L6からL9まで外観と操作方法に統一感がある
  • i6とi8では5C急速充電を標準的な価値へしている
  • OTAで車内機能と運転支援を更新できる

特に評価されたのは、運転者だけでなく同乗者を購入判断の中心に置いたことです。中国では「冷蔵庫、テレビ、大きなソファ」と簡略化して語られることもありますが、実際には家族が長時間乗るときの小さな不満を一つずつ減らした商品設計です。

注意したい点と現在の課題

第一に、Li Autoは成長が止まったわけではありませんが、2024年までの勢いをそのまま維持できているわけでもありません。2025年は納車、売上、利益がそろって減少し、2026年第1四半期は赤字でした。i6の販売をLシリーズの更新と収益改善へつなげられるかが重要です。

第二に、製品構成が変わる途中です。従来のL7・L8・L9の役割と、2026年型のL8・L9は同じではありません。購入時には車名だけで判断せず、年式、座席数、バッテリー容量、運転支援ハードウェアを確認する必要があります。

第三に、増程式は便利ですが、完全な純電気自動車ではありません。エンジンの整備、燃料、排出ガスがあり、車体重量も増えます。短距離中心で自宅充電ができる人と、常に高速道路を走る人では実際の効率が変わります。

第四に、Li Autoが使うVLA、MindVLA、AD Maxなどの名称は、高度な運転支援とAI技術を示すものです。しかし、市販車の完全自動運転を意味しません。利用できる機能は車種、地域、ソフトウェア、道路状況によって異なり、運転者が常に監視する必要があります。

日本では正規販売されていない

2026年6月15日時点で、Li Autoは日本で正規販売されていません。海外展開は中央アジア、中東、アフリカの一部で始まっていますが、日本向けの価格、店舗、保証は公式発表されていません。

並行輸入する場合は、左ハンドル、型式認証、充電規格、通信回線、地図、音声操作、運転支援、部品供給、保証を確認する必要があります。

Lシリーズはガソリンを使えるため日本でも扱いやすそうに見えますが、増程器を含むパワートレイン全体の整備体制が必要です。i6、i8、MEGAでは中国向けの急速充電性能を日本の充電器でそのまま利用できるとは限りません。

まとめ:Li Autoは「家族向け増程SUV」からAI・純電気企業へ変わろうとしている

Li Autoは2015年に創業し、理想ONEでレンジエクステンダーEVを中国の家族へ普及させました。その後、L9、L8、L7、L6へ商品を広げ、2024年には年間50万台を超えるメーカーへ成長しています。

主力車を簡単に分けると、L6は手頃な5人乗り増程SUV、L9は最上級の大型増程SUVです。i6は現在の純電気量販モデル、i8は6人乗り純電気SUV、MEGAは7人乗り純電気MPVです。2026年6月下旬には、5人乗りへ役割を変えた新型L8も加わる予定です。

Li Autoの強みは、最新技術を見せるだけでなく、家族の移動に必要な空間、装備、航続距離へ落とし込むことです。

一方、2025年の販売減少、2026年第1四半期の赤字、増程式から純電気への転換は小さな課題ではありません。i6の好調とLシリーズの全面更新によって、再び販売と利益を伸ばせるか。Li Autoは現在、創業以来で最も大きな商品転換の途中にあります。

この記事の情報源について

メーカーの公式情報を中心に、日本語・中国語を含む国内外のレビューや利用者の声を照合して構成しています。