スマートフォンやスマート家電で知られるXiaomiが自動車を作る。2021年に参入を発表した当初、この計画を半信半疑で見ていた人は少なくありませんでした。

自動車は、スマートフォンよりはるかに安全責任が重く、開発、工場、販売、整備に巨額の投資が必要です。しかも中国のEV市場には、BYD、Tesla、NIO、XPeng、Li Auto、Geely系ブランドなど強力な競合がそろっています。

ところがXiaomiは、最初の量産車「SU7」を2024年3月に発売し、続くSUV「YU7」を2025年6月に投入。デザイン、性能、スマート機能、価格の組み合わせで注文を集め、短期間で中国EV市場の主要ブランドへ入りました。

2025年の小米汽車の年間納車台数は411,082台です。Xiaomiの発表では、SU7シリーズは同年の中国本土における20万元以上のセダン販売で首位となり、YU7シリーズも2026年2月まで中大型SUV販売で7カ月連続首位を記録しました。

この記事では、小米汽車がどのようなブランドなのか、SU7とYU7の違い、なぜ売れたのか、中国での評判と課題、日本の読者が知っておきたい注意点を整理します。

まず知りたいこと回答
小米汽車とはXiaomiが展開するスマートEV事業
自動車参入の発表2021年3月
最初の量産車SU7、2024年3月発売
2番目の主力車YU7、2025年6月発売
車種の違いSU7はスポーツセダン、YU7は中大型SUV
2025年の納車台数411,082台
日本での正規販売2026年6月時点で未実施

小米汽車は「スマホ会社の副業」ではない

小米汽車を理解するうえで重要なのは、Xiaomiが既存メーカーへ名前を貸しただけではないことです。

Xiaomiは北京にEV事業の本拠を置き、自動車工場、モーター、車体構造、電子電気アーキテクチャ、運転支援、車載OSまで広く投資してきました。車両の生産には中国自動車業界のサプライチェーンを活用しつつ、自社の強みであるソフトウェアと家電エコシステムを車へ持ち込んでいます。

狙いは、単に電気自動車を販売することではありません。Xiaomiが掲げるのは「Human × Car × Home」、つまり人、クルマ、家を一つのOSとアカウントでつなぐ構想です。

スマートフォンで目的地を車へ送り、車内から自宅のエアコンや照明を操作し、スマートウォッチを鍵として使う。こうした体験を、スマホ、テレビ、掃除機、エアコンまで抱えるXiaomiの製品群と組み合わせられることが、一般的な新興EVブランドとの違いです。

SU7:Xiaomiの自動車参入を成功させたスポーツセダン

SU7は、Xiaomi初の量産EVです。2023年12月に技術と車両を発表し、2024年3月28日に中国で正式発売されました。

初代の発売価格は、標準版が21万5,900元、Proが24万5,900元、Maxが29万9,900元でした。Tesla Model 3と競合する価格帯に、長い航続距離、強力な加速性能、大型ディスプレイ、スマートフォン連携を盛り込んだことが大きな話題になりました。

新世代Xiaomi SU7の公式画像 画像: 小米汽車公式サイト

2026年3月には新世代SU7へ更新され、価格は標準版21万9,900元、Pro 24万9,900元、Max 30万3,900元から。中国価格を2026年6月の為替で単純換算すると、標準版は約520万円です。ただし、これは税金、輸送費、認証費用を含まない参考値です。

新世代SU7は、最長902kmのCLTC航続距離、全車へのLiDARと4Dミリ波レーダー、NVIDIA DRIVE AGX Thor、9個のエアバッグ、強化された車体とドア開放機構などを採用しました。初代で注目されたデザインと走りを維持しながら、安全装備と快適性を重点的に見直したモデルです。

なお、CLTCは中国の試験方式であり、日本のWLTCより航続距離が長く出やすい傾向があります。「902km走れる」という数字を、そのまま日本の高速道路や冬季の実走距離として考えるべきではありません。

SU7の魅力は、速さだけではない

SU7は0-100km/h加速や高出力モーターが目立つため、性能重視の車に見えます。しかし、実際に市場で支持された理由は、もっと総合的です。

  • 5m近い車体を低く見せるスポーティーなデザイン
  • 同価格帯として装備が充実している
  • HyperOSによる滑らかな車載画面と音声操作
  • Xiaomiスマートフォン、家電、Apple製品との連携
  • 豊富な純正アクセサリーと拡張端子
  • OTAで機能を更新できる

特に車載ソフトウェアは、従来の自動車メーカーに対するXiaomiの強みです。車内画面を単なるナビではなく、スマートフォンやタブレットに近い操作感でまとめ、物理ボタンやマグネット式アクセサリーも追加できるようにしました。

Xiaomi SU7のセンターコンソールに配置された物理ボタンとワイヤレス充電スペース 横一列の物理ボタンで空調などを操作できる。画像: 小米汽車公式サイト

Fordのジム・ファーリーCEOが輸入したSU7を半年間運転し、「手放したくない」と語ったことも、海外での注目を高めました。価格の安さだけでなく、完成度とデジタル体験が既存メーカーにも無視できない水準へ達したことを示すエピソードです。

YU7:ファミリー層まで広げた中大型SUV

YU7は、小米汽車の2番目の主力モデルであり、初のSUVです。2025年5月に詳細を公開し、6月26日に価格を発表して販売を開始しました。

初回発売時の価格は、標準版25万3,500元、Pro 27万9,900元、Max 32万9,900元。Tesla Model Yを強く意識しながら、より長い車体、最大835kmのCLTC航続距離、豪華装備、急速充電性能を打ち出しました。

発売直後には注文が集中し、Xiaomiは18時間で24万台の確定注文を得たと発表しています。需要が生産能力を大きく上回り、長い納車待ちが発生したこと自体がニュースになりました。

Xiaomi YU7の公式画像 画像: 小米汽車公式サイト

2026年5月には、より手頃なYU7標準版と高性能なYU7 GTが追加されました。現在の中国公式サイトでは、YU7シリーズは23万3,500元から。単純換算では約550万円からとなります。

YU7は、SUVとしての実用性が強い

SU7が運転する楽しさを前面に出したセダンなら、YU7は家族や荷物を載せる日常まで広げたモデルです。

公式仕様では、141Lの電動フロントトランク、最大1,970Lの収納容量、36カ所の収納、後席の電動格納、冷温対応の車載冷蔵庫などを用意しています。前席のゼログラビティシート、後席の電動リクライニング、静音ガラス、最大25スピーカーなど、快適装備も充実しています。

Xiaomi YU7の25スピーカー配置図 Dolby Atmos対応の25スピーカーを車内各所へ配置。画像: 小米汽車公式サイト

YU7を象徴する装備が、フロントガラス下部へ情報を映す「小米天際屏」です。3枚のMini LED画面を使い、速度、ナビ、車両情報、左右の死角映像などを横長に表示します。一般的なメーターパネルを大きくするのではなく、視線移動を減らしながら情報量を増やす発想です。

Xiaomi YU7の小米天際屏を備えたコックピット フロントガラス下部へ横長に情報を表示する「小米天際屏」。画像: 小米汽車公式サイト

さらに、CarPlay、iPhoneのUWBキー、iPadの後席接続にも対応します。Xiaomi製品だけに利用者を囲い込まず、Appleユーザーも使いやすくしている点は現実的です。

SU7とYU7、どちらが主役なのか

比較項目SU7YU7
ボディ4ドアスポーツセダン中大型SUV
初回発売2024年3月2025年6月
現行価格21万9,900元から23万3,500元から
現行モデルの最長CLTC航続距離902km835km
強み低い着座姿勢、走行性能、デザイン室内空間、収納、快適性、家族用途
主な競合Tesla Model 3、BYD Han系Tesla Model Y、Li AutoやNIOのSUV
向く人運転とスタイルを重視する人日常性と長距離の快適さを重視する人

ブランドを有名にしたのはSU7です。Xiaomiが本当に自動車を作れることを証明し、セダン人気が弱まる中国市場でヒットを生みました。

一方、販売規模をさらに広げる役割はYU7が担っています。SUVは乗り降りしやすく、荷物を積みやすく、家族で選びやすい。SU7で興味を持った人を、より大きな市場へ取り込む製品です。

なぜ価格競争の激しい中国で売れたのか

中国のEV市場では値下げと新車投入が続き、性能の良い車を安く出すだけでは長く注目されません。それでも小米汽車が短期間で販売を伸ばした理由は、5つに整理できます。

1. 価格の見せ方が明快だった

SU7は、購入者が知っているTesla Model 3を基準にしながら、航続距離、加速、装備を分かりやすく比較しました。YU7でもModel Yを正面から競合に置きました。

知らないブランドの新型車ではなく、「Teslaと比べて何が増え、いくら安いか」を示したことで、購入判断を簡単にしています。

2. デザインに強い購入理由があった

SU7は発売当初、Porsche TaycanやMcLarenに似ているという議論も起きました。YU7もFerrari Purosangueを連想させるという声があります。

独自性をめぐる評価は分かれますが、見た瞬間に格好よさが伝わることは販売面で大きな強みでした。価格を抑えたEVにありがちな「実用品らしさ」ではなく、高級スポーツカーに近い雰囲気を選べるからです。

3. Xiaomiユーザーの基盤が大きい

Xiaomiには、スマートフォンとAIoTを使う巨大な利用者層があります。車のために新しいアカウントや操作体系を覚えるのではなく、すでに使っているXiaomiアカウント、アプリ、音声アシスタント、家電へつながります。

自動車メーカーとしては新しくても、消費者ブランドとしては無名ではありません。この差は、新興EV企業にとって非常に大きいものです。

4. 発表会とコミュニティづくりがうまい

創業者の雷軍氏は、自ら長時間の発表会やライブ配信に登場し、開発思想、価格、競合比較、工場の進捗を説明してきました。スマートフォンで培った発売イベントの手法を、自動車へ持ち込んでいます。

新色、アクセサリー、サーキット記録、工場の生産台数まで継続的に話題を作るため、納車まで時間がかかってもブランドへの関心が続きやすい構造です。

5. 生産拡大が販売実績につながった

2024年の納車は136,854台、2025年は411,082台へ増加しました。2025年のスマートEV事業売上は1,033億元に達し、EV、AIなどの新規事業部門は通年で初めて営業黒字を達成しています。

注文数だけでなく、工場の能力を引き上げて実際の納車へつなげたことが、小米汽車を一時的な話題から事業へ変えました。

中国での評判:高評価と不安が同時にある

小米汽車の評判を一言で表すなら、製品の魅力と価格には強い支持がある一方、新しい自動車メーカーとしての安全性と対応力は厳しく見られているとなります。

評価されやすいのは、次の部分です。

  • 外観と内装に高級感がある
  • 同価格帯で加速、航続距離、快適装備が充実している
  • 車載画面と音声操作が分かりやすい
  • スマートフォン、家電、アクセサリーとの連携が楽しい
  • OTAによる改善が速い

反対に、不満や不安として挙がるのは、納車待ち、初期モデルの細かな品質問題、事故後の情報開示、運転支援機能の扱いです。人気が生産能力を上回った時期には、納車まで半年以上、仕様によってはさらに長い見込みが表示され、購入者から説明の分かりにくさを指摘する声も出ました。

安全性と運転支援は、販売台数以上に重要

2025年にはSU7が関係する重大事故が報じられ、運転支援の限界、ドライバーへの警告、衝突後のドア開放、バッテリー火災などが社会的な議論になりました。

同年9月、中国の国家市場監督管理総局は、SU7標準版116,887台を対象とするリコールを公表しました。理由は、L2高速道路運転支援を使用する一部の極端な状況で、認識、警告、処置が不十分となる可能性があることです。対策はOTAによるソフトウェア更新でした。

Xiaomi YU7に搭載されるカメラ、LiDAR、4Dミリ波レーダーなどの配置図 カメラ、LiDAR、4Dミリ波レーダーなどを組み合わせたYU7の感知ハードウェア。画像: 小米汽車公式サイト

新世代SU7では、LiDAR、4Dミリ波レーダー、計算能力、エアバッグ、超高強度鋼、機械式ドアハンドル、非常用電源などが強化されています。これは前向きな改善ですが、「新型だから問題が完全に解決した」とまでは断言できません。

Xiaomi YU7の鋼アルミ複合ボディ構造 2200MPa級の超高強度材を使う鋼アルミ複合ボディ。画像: 小米汽車公式サイト

Xiaomi自身も公式サイトで、運転支援はドライバーに代わるものではなく、常に道路を確認して操作できる状態を保つよう明記しています。名称や画面表示が高度でも、現在の市販車は自動運転車ではありません。

日本ではまだ買えない。並行輸入は慎重に

2026年6月13日時点で、SU7とYU7は日本で正規販売されていません。Xiaomiのグローバル発表でも、中国本土以外では販売していないと案内されています。

並行輸入車が流通する可能性はありますが、日本で日常的に使うには次の問題があります。

  • 日本の保安基準への適合と登録
  • 右ハンドル仕様の有無
  • 充電コネクターと急速充電規格
  • 地図、通信、音声機能の地域制限
  • OTAとXiaomiアカウントの利用条件
  • 事故や故障時の修理、部品、保証
  • 自動車保険と下取り

スマートフォンなら海外版を試す楽しみがありますが、自動車は安全、法規、修理費用が違います。正規販売とサービス網が整う前に個人輸入するのは、一般の購入者には勧めにくい選択です。

まとめ:SU7とYU7は「安い中国EV」だけでは説明できない

小米汽車は、2021年の参入発表から約3年でSU7を発売し、その翌年にYU7を投入しました。2025年には41万台以上を納車し、20万元以上のセダンと中大型SUVで首位級の販売実績を作っています。

成功の中心にあるのは、価格だけではありません。高級車を意識したデザイン、十分な航続距離と性能、HyperOSの操作性、スマートフォンと家電を含むエコシステム、雷軍氏による発信、急速な生産拡大が一つにつながっています。

SU7は、小米汽車の技術とブランドを一気に広めたスポーツセダンです。YU7は、その魅力をSUVの空間と快適性へ広げ、より多くの家族が選べる製品にしました。この2台は、Xiaomiがスマホメーカーから総合テクノロジー企業へ変わろうとする象徴です。

一方、事故、運転支援、リコール、初期品質、長い納車待ちといった課題もあります。販売が好調であることと、自動車メーカーとして十分に成熟していることは同じではありません。

小米汽車の本当の評価は、数年後の耐久性、修理体制、中古価格、安全改善まで見て決まります。それでもSU7とYU7が、中国EV市場の基準を「安さ」から「デザイン、ソフトウェア、性能、生活とのつながり」へ引き上げたことは確かです。

この記事の情報源について

メーカーの公式情報を中心に、日本語・中国語を含む国内外のレビューや利用者の声を照合して構成しています。