中国の新興EVメーカーの中でも、NIO(蔚来/ニーオ)は少し異質な存在です。

TeslaやXPENGが充電速度とソフトウェアを競い、Li AutoがレンジエクステンダーSUVで成長する中、NIOは高級EV、手厚いサービス、利用者コミュニティ、そして車のバッテリーを丸ごと交換する「換電」を一つの体験にまとめてきました。

現在のNIOは一つの自動車ブランドではありません。高級車の「NIO」、家族向けの「ONVO(楽道)」、小型プレミアムEVの「firefly(萤火虫)」という3ブランドを展開しています。

2025年のNIO Inc.全体の納車台数は32万6,028台で、前年比46.9%増。2026年5月には単月3万7,705台を納車し、ONVOとfireflyも販売規模を広げています。

この記事では、NIOがどのように始まった会社なのか、3ブランドの違い、主力車種、販売実績、換電とBaaSの仕組み、中国で評価される理由と注意点を整理します。

まず知りたいこと回答
NIOとは2014年創業の中国スマートEV企業
創業者李斌(William Li)氏
本社中国・上海
3つのブランドNIO、ONVO、firefly
最大の特徴約3分でバッテリーを交換する換電
2025年の納車台数326,028台
2026年1~5月の納車台数150,526台
日本での正規販売2026年6月時点で未実施

NIOは2014年に誕生した高級EVメーカー

NIOは2014年11月、李斌氏によって設立されました。中国語名の「蔚来」には、同社が掲げる「Blue Sky Coming」、つまり青空のある持続可能な未来という意味が込められています。

最初に発表した車は量販SUVではなく、電動スーパーカーのEP9でした。2016年にEP9を公開し、技術力とブランドイメージを先に作った後、2017年に最初の量産SUV「ES8」を発売。2018年6月に納車を始めました。

同年9月にはニューヨーク証券取引所へ上場し、2022年には香港とシンガポールにも上場しています。

創業当初からNIOが目指したのは、安い電気自動車を大量に売ることではありませんでした。車、充電、整備、店舗、アプリ、イベントまでを含む高級な利用体験を作り、中国発のプレミアムブランドとして定着することが狙いです。

NIOのフラッグシップSUV、ES9 2026年5月に発売された最上級SUV、ES9。画像: NIO公式サイト

現在は3ブランドで市場を分担している

NIOの車を理解するには、会社名とブランド名を分けて考える必要があります。

ブランド中国語名役割主な価格帯
NIO蔚来高級スマートEV約30万~80万元超
ONVO乐道家族向け量販EV約19万~30万元
firefly萤火虫小型プレミアムEV約12万元

NIO主ブランドは、BMW、Mercedes-Benz、Audiなどの高級車から乗り換える利用者を想定しています。ONVOはTesla Model Yや中国の20万元台SUVを選ぶ家族層、fireflyは都市部で使いやすい小型車を求める若い利用者が中心です。

3ブランドは価格とデザインを分けながら、NIOが開発した車載OS、AI、電動技術、販売・サービス網、換電設備を共有します。研究開発とインフラへの巨額投資を、より多くの車種で回収するための戦略でもあります。

中国での販売は2025年から再び伸びた

NIO Inc.の2025年通期納車台数は32万6,028台で、2024年から46.9%増えました。12月には単月4万8,135台を納車し、月間記録も更新しています。

2026年第1四半期は8万3,465台で、前年同期比98.3%増。内訳はNIOブランドが5万8,543台、ONVOが1万3,339台、fireflyが1万1,583台でした。

5月単月は次のようになっています。

  • NIOブランド:20,013台
  • ONVOブランド:12,029台
  • fireflyブランド:5,663台
  • 3ブランド合計:37,705台

2026年1月から5月までの累計は15万526台で、前年同期比68.7%増です。会社全体の累計納車は114万8,118台に達しました。

販売増加を支えたのは、新型ES8、ONVO L90、fireflyです。特にNIO単独では届きにくかった20万元台と10万元台へ、ONVOとfireflyが顧客層を広げたことが大きな変化です。

業績も改善しています。2026年第1四半期の売上高は255億3,270万元、粗利益率は19.0%。最終損益は3億3,210万元の赤字でしたが、前年同期の67億5,000万元の赤字から大きく縮小しました。調整後では小幅な黒字を確保しています。

NIO主ブランド:高級感とサービスを重視

NIO主ブランドの車名は、セダンの「ET」、SUVの「ES」、クーペSUVの「EC」を基本としています。数字が大きいほど、原則として車格も上がります。

ET5・ET5T:NIOの身近な主力モデル

ET5は中型スポーツセダン、ET5Tはそのワゴン版です。中国での価格はどちらも29万8,000元から。BaaSを利用する場合、車両本体部分は22万8,000元からとなります。

NIO ET5T 実用性とデザインを両立した電動ワゴン、ET5T。画像: NIO公式サイト

特にET5Tは、SUVほど背が高くない一方で、荷室と後席を広く使えることが特徴です。中国では珍しかった電動ワゴン市場を開拓し、欧州でも展開されています。

ET5シリーズは、NIOのデザイン、NOMI音声アシスタント、運転支援、換電を比較的手の届きやすい価格で体験できる中心車種です。

ES6・EC6:販売の中核を担うSUV

ES6は5人乗りの中型SUVで、33万8,000元から。EC6はルーフを低くしたクーペSUVで、35万8,000元からです。

ES6は室内空間と日常性を重視し、EC6はスタイルを優先しています。どちらもNIOの高級SUVとしては中核の価格帯で、Tesla Model Yより上、欧州高級SUVと競合する位置付けです。

ES8・ES9:大型SUVの最上位

3代目の新型ES8は、6人乗りまたは7人乗りの大型SUVです。中国価格は40万6,800元からで、2025年後半のNIOブランドを支えた主力車になりました。

ES9は2026年5月27日に発売された、さらに上のフラッグシップSUVです。全長5,365mm、ホイールベース3,250mmの大型ボディに3列シートを備え、価格は49万8,000元から。BaaS利用時の車両価格は39万元からです。

ES8が家族でも使える高級大型SUVなら、ES9は後席での移動、仕事、接客まで想定したエグゼクティブモデルです。

ET7・ET9:セダンの上級モデル

ET7は大型高級セダン、ET9はNIOの技術を集約した最上級セダンです。

ET9は78万8,000元からで、ステア・バイ・ワイヤ、後輪操舵、完全アクティブサスペンション、自社開発の車載チップなどを採用します。販売台数を稼ぐ車というより、NIOがどこまで自社技術を開発できるかを示すショーケースです。

ONVO:家族向けEVを20万元台へ

ONVOは2024年に始まったNIOの第2ブランドです。中国語名「乐道」は、家族が楽しく暮らす道というイメージを持ち、NIOより価格を抑えながら、空間、電費、安全、換電を重視しています。

新型L60:ONVOの量販を担う中型SUV

L60はONVO最初の車で、Tesla Model Yの競合となる中型クーペSUVです。2026年6月11日に新型が発売され、価格は19万2,800元から。BaaS利用時の車両価格は13万5,800元からとなりました。

ONVO L60 2026年6月に更新された家族向け中型SUV、L60。画像: ONVO公式サイト

900V高電圧システム、最大740kmのCLTC航続距離、自社開発のNX9031チップを選べる運転支援、広い後席が特徴です。旧型を含むL60の累計納車は、2026年6月時点で約10万台に達したとONVOは発表しています。

L80:5人で広く使う大型SUV

L80は2026年5月に発売された大型5人乗りSUVです。価格は24万2,800元から、BaaS利用時は15万6,800元からです。

ONVO L80 前後の大型荷室を持つ5人乗りSUV、L80。画像: ONVO公式サイト

全長5,145mmの大きな車体を5人乗りとして使い、240Lの電動フロントトランクと1,200Lのリア荷室を確保しています。3列目を必要としない家族が、後席と荷物空間を最大限に使うための車です。

L90:6人・7人で使う3列SUV

L90はONVOの大型3列SUVです。2026年モデルは26万5,800元から、BaaS利用時は17万9,800元から。6人乗りと7人乗りを選べます。

2025年の発売後、3カ月連続で月間1万台以上を納車したとNIOは発表しています。高価格になりやすい大型純電気SUVを20万元台へ持ち込んだことが、ONVOの販売増加につながりました。

firefly:都市向けの小型プレミアムEV

fireflyはNIOの第3ブランドで、最初の同名モデルは2025年4月に発売されました。中国価格は11万9,800元から12万5,800元。CLTC航続距離は420kmです。

fireflyの小型電気自動車 3連の丸型ライトが特徴的な小型EV、firefly。画像: firefly公式サイト

全長約4mの小型車ですが、後輪駆動、広い前後の荷室、9個のエアバッグ、最小回転半径4.7mなどを特徴としています。価格だけを重視した廉価EVではなく、MINIやSmartに近い個性的な小型プレミアム車を狙った製品です。

丸型ライトを3個ずつ並べたデザインは評価が分かれますが、一目でfireflyと分かる強い個性があります。NIOの高級感を小さくした車ではなく、若さと親しみやすさを前面に出した別ブランドです。

NIO最大の違いは、バッテリーを交換できること

NIOを他社と分ける最大の特徴が、Power Swap Stationです。車を所定の位置へ入れると機械が車体下部のバッテリーを外し、充電済みのバッテリーへ約3分で交換します。

NIOのバッテリー交換1億回達成 NIOは2026年2月に累計1億回のバッテリー交換を達成した。画像: NIO公式サイト

2026年2月時点で、NIOは世界に3,790カ所の交換ステーションを設置し、中国の高速道路沿いだけで1,020カ所を運営していました。2026年にはさらに1,000カ所を追加し、第5世代ステーションを展開する計画です。

充電を待たずに長距離移動を続けられるだけでなく、ステーション側でバッテリーの状態を検査し、劣化した電池を利用者が抱え続けなくてよい利点があります。

一方、交換ステーションの建設と維持には大きな費用がかかります。車体とバッテリーの規格をそろえる必要もあり、世界のどこでも簡単に再現できる仕組みではありません。NIOの強みであると同時に、継続的な投資が必要な事業です。

BaaSは「安く買える」だけではない

NIOとONVOの価格を見ると、「BaaSなら10万元近く安い」と表示されることがあります。

BaaSはBattery as a Serviceの略で、車とバッテリーを分けて契約する仕組みです。購入時にはバッテリー代を払わないため車両価格が下がりますが、利用者は毎月バッテリー使用料を支払います。

そのため、BaaS価格を一般的な値引き後の価格として比べるのは正確ではありません。

  • 初期費用を抑えられる
  • バッテリー交換サービスを利用できる
  • 将来、容量の異なるバッテリーへ変更しやすい
  • 長期間使うほど月額料金の合計が増える
  • 契約条件や中古車売却時の扱いを確認する必要がある

車を何年使うか、月額料金を含む総支払額がいくらになるかまで計算して、バッテリー込みの一括購入と比較する必要があります。

中国で評価される理由

NIOが中国で支持される理由は、車両性能だけではありません。

  • 約3分のバッテリー交換と広い充換電ネットワーク
  • 内外装の統一感とプレミアムなデザイン
  • NOMIを中心とした親しみやすい車内操作
  • NIO House、アプリ、イベントを含む利用者コミュニティ
  • 整備、代車、訪問対応などを組み合わせたサービス
  • ET5TからES9まで、用途の異なる高級EVをそろえている
  • ONVOとfireflyにより、価格の選択肢が広がった

従来の高級車は、エンジン、素材、ブランドの歴史が価値の中心でした。NIOはそこへ、アプリ、AI、エネルギー補給、コミュニティを加え、「所有中の体験」まで商品にしたことが新しかったのです。

課題と注意点

第一の課題は費用です。換電所、充電器、NIO House、手厚いサービス、自社チップ、複数ブランドを同時に運営するには、非常に大きな投資が必要です。2026年第1四半期には収益性が大きく改善しましたが、最終損益はまだ赤字でした。

第二に、ブランドと車種が増えて分かりにくくなっています。NIOだけでもET、ES、ECの各シリーズがあり、ONVOにはL60、L80、L90があります。さらに一括購入とBaaSで価格表示が二つあるため、購入者は車格、バッテリー、月額費用を整理して比較する必要があります。

第三に、換電の価値は地域によって大きく変わります。交換ステーションが多い中国の主要都市では便利ですが、設備の少ない海外では通常の充電が中心となり、NIO独自の魅力が弱くなります。

また、NIO WorldModelやNavigate on Pilotなどは高度な運転支援機能ですが、完全自動運転ではありません。利用できる機能は地域、車種、ソフトウェア、道路条件で異なり、運転者が常に周囲を確認する必要があります。

日本ではまだ正規販売されていない

2026年6月15日時点で、NIO、ONVO、fireflyは日本で正規販売されていません。NIOの公式地域一覧にも日本向け販売サイトはありません。

日本で並行輸入車を使う場合は、右ハンドルの有無、型式認証、充電規格、通信、地図、運転支援、修理部品、保証を確認する必要があります。特に換電設備がないため、中国と同じNIO体験をそのまま利用することはできません。

fireflyは小型で日本の道路環境にも合いそうですが、車体サイズだけで日本導入が簡単になるわけではありません。正規の販売・整備体制が整うかが重要です。

まとめ:NIOは車ではなく、EVの利用環境を作っている

NIOは2014年の創業以来、中国発の高級EVブランドを作ることに挑戦してきました。現在はNIO、ONVO、fireflyの3ブランドを使い、高級セダンとSUV、家族向け量販SUV、都市向け小型車まで市場を広げています。

主力車を簡単に分けると、ET5・ET5TとES6はNIOの中核、ES8とES9は大型高級SUV、ET9は技術を示す最上級セダンです。ONVO L60は量販中型SUV、L80は大型5人乗り、L90は3列ファミリーSUV、fireflyは小型プレミアムEVです。

2025年は32万6,028台、2026年1~5月は15万526台を納車し、販売は再び拡大しています。NIOブランドだけでなく、ONVOとfireflyが成長したことで、会社全体の構造も変わりました。

NIOの本当の強みは、単体の車種やスペックだけではありません。約3分の換電、BaaS、サービス、店舗、アプリ、コミュニティをつなぎ、電気自動車を使う環境全体を設計していることです。

一方、その仕組みは大きな投資を必要とし、中国国外では同じ価値を提供しにくいという課題があります。3ブランドの販売拡大と収益改善を続けながら、換電ネットワークを持続可能な事業にできるか。それが今後のNIOを評価する最大のポイントです。

この記事の情報源について

メーカーの公式情報を中心に、日本語・中国語を含む国内外のレビューや利用者の声を照合して構成しています。