天体撮影は、望遠鏡、赤道儀、カメラ、ピント合わせ、天体の導入、画像処理を別々に学ぶ必要がありました。中国・蘇州の天体カメラメーカーZWOが展開するSeestarは、これらを一体化し、スマートフォンで天体を選ぶと自動で向きを変え、複数の画像を重ねて表示するスマート望遠鏡です。
Seestar S30 Proは、従来のS30と同程度の小型筐体に、望遠と広角の4Kデュアルカメラを搭載したモデルです。重量は約1.65kg。望遠鏡、カメラ、自動フォーカス、経緯台、フィルター、制御機能を一台へまとめています。
東京や大阪のように夜空が明るい場所でも、月、太陽、明るい星団、一部の星雲を撮影できます。ただし、肉眼で見えない天体が画面へ現れることと、暗い空と同じ品質で撮れることは別です。
S30 Proは何が変わったか
小型筐体に望遠・広角のデュアルカメラをまとめたS30 Pro。画像:Seestar公式サイト
S30 Proは、望遠側に1/1.2型のSony IMX585、広角側にIMX586を採用します。公式情報では、望遠側の受光面積はS30の約4倍です。広角と望遠を組み合わせ、天の川、星景、星雲、月、昼間の遠景まで撮影対象を広げています。
| モデル | 特徴 | 向く人 |
|---|---|---|
| Seestar S30 | 小型・軽量な入門機 | 価格と携帯性を優先 |
| Seestar S30 Pro | 4Kデュアルカメラ、広角星景に対応 | 一台で天の川と深空を試したい |
| Seestar S50 | 口径と焦点距離を重視 | 星雲や星団を中心に撮りたい |
S30 ProがS50を全面的に置き換えるわけではありません。広角の景色と星空を組み合わせたいならS30 Pro、対象を大きく写す深空撮影へ軸を置くならS50も比較対象です。
スマート望遠鏡が自動化する部分
アプリから天体導入や撮影を操作できる一体型のスマート望遠鏡。画像:Seestar公式サイト
設置後に水平を確認し、アプリから天体を選ぶと、内蔵データとセンサーを使って対象へ向きます。自動フォーカスで星を合わせ、短い露光を繰り返し、画像を重ねるライブスタッキングを行います。
一枚の長時間露光では、追尾のずれや振動で全体が失敗しやすくなります。短い画像を多数重ねれば、失敗した画像を除きながら天体の信号を増やせます。画面上では、最初は薄かった星雲が数分、数十分で見えやすくなります。
自動化されても、雲、風、結露、街灯、月明かりは残ります。アプリで天体を選べることと、その夜に撮影条件が良いことは別です。
都市部で撮りやすい対象
月
最初の対象として最も分かりやすく、短時間で撮れます。満月は明るく平面的に見えやすいため、半月前後に明暗の境界を狙うとクレーターの影が出ます。
太陽
付属または対応する太陽フィルターを望遠鏡の対物側へ確実に固定し、アプリの太陽モードを使います。黒点を記録できますが、フィルターなしで太陽へ向けてはいけません。
国立天文台も、望遠鏡や双眼鏡は太陽光と熱を集めるため、肉眼以上に危険だと案内しています。フィルターの傷、外れ、取り付け向きを毎回確認し、自己流のNDフィルターや色付き板で代用しません。
明るい星団と星雲
プレアデス星団、オリオン大星雲など、明るい対象は都市でも比較的取り組みやすくなります。光害カット系フィルターは人工光の影響を減らす助けになりますが、すべての街灯と月明かりを消す機能ではありません。
銀河と淡い星雲
都市中心部では難度が上がります。露光時間を伸ばしても、背景の明るさも増えます。遠征できるなら、同じ機材でも暗い場所で結果が大きく変わります。
ベランダで使うときの注意
ベランダは空が狭く、建物が揺れ、エアコン室外機の振動や熱気もあります。手すりのすぐ近くへ不安定に置かず、水平で固い床へ設置します。強風時は使わず、落下防止を優先します。
上階や隣室から見える場所では、望遠鏡が住宅へ向いていると誤解を招く可能性があります。天体観測の機器だと分かる置き方にし、昼間の望遠撮影で他人の住居を撮らない配慮も必要です。
結露が出た状態で収納すると、レンズや内部へ湿気を残します。屋外から戻した後は、急な温度変化を避け、表面の水分がなくなってからケースへ戻します。
スマート望遠鏡の弱点
第一に、接眼レンズをのぞく望遠鏡とは体験が違います。S30 Proは画面へ画像を作る機械であり、自分の目で光を受ける観望を重視する人には通常の望遠鏡が向きます。
第二に、アプリとソフトウェアへの依存があります。天体データ、接続、画像処理、ファームウェア更新が製品体験の大部分を占めます。購入後は、スマートフォンの対応OS、保存形式、元画像の書き出し方法を確認します。
第三に、高度な天体撮影へ進むと制約が見えます。レンズ、カメラ、架台を自由に交換できるシステムと違い、拡張性は限定的です。惑星を大きく撮る、狭い対象を高解像度で撮る、本格的な赤道儀で長時間露光する用途では専用機材が必要になります。
どんな人に向くか
- 天体の位置を覚える前に撮影を体験したい
- 旅行やキャンプへ1~2kg程度の機材を持って行きたい
- 家族とタブレット画面を見ながら観察したい
- 都市部で月や明るい天体から始めたい
- 撮影後に画像処理も少し試したい
反対に、接眼観望を中心にしたい人、機材を一つずつ組み上げたい人、惑星を大きく高精細に撮りたい人には通常の望遠鏡と赤道儀のほうが長く使えます。
Seestar S30 Proの価値は、専門的な天体撮影機材を完全に置き換えることではありません。「今夜見える天体を選び、数分後に自分の画面へ像を出す」までを短くした点にあります。都市の光害は消せませんが、天文を始める最初の失敗を減らす道具としては、従来の望遠鏡と異なる強さがあります。
参考資料・情報源
メーカー公式情報を中心に、日本語・中国語を含む国内外の資料を照合して構成しています。