中国の年央セール「618」は、単に値下げ商品を探す催事ではありません。中国でどの製品が普及段階へ入り、どの技術がまだ話題先行なのかを見る定点観測としても使えます。
2026年の結果で目立ったのは、スマートフォンや大型家電だけではありません。京東の発表では、3CデジタルのAIトレンド製品が前年同期比100%増、AI感知デバイスが20倍、AI眼鏡が3倍、ゲーム用携帯機と専門健康ウォッチがそれぞれ150%増となりました。
ただし、伸び率が大きいことと市場規模が大きいことは同じではありません。新設された小さなカテゴリは、前年の販売が少なければ簡単に数倍になります。この記事では、売上の絶対額が公表されない戦報を「人気ランキング」として鵜呑みにせず、何が実用品として広がっているのかを読み解きます。
画像: 京東618デジタル部門戦報(ZOL掲載)
2026年618の大きな流れ
中新経緯研究院などがまとめた618消費洞察報告では、今年もスマートフォン、PC、家電がセールの基本部分を占めました。消費者が動画だけで衝動買いするより、商品を検索し、仕様と価格を比較できる京東や天猫のような棚型ECが主戦場です。
一方、成長カテゴリを見ると、消費者の関心は「AIという名前」よりも、用途が説明しやすい製品へ集まっています。
| 2026年618の注目カテゴリ | 公表された動き | 実際の購入理由 |
|---|---|---|
| 3CデジタルのAIトレンド製品 | 成交額が前年同期比100%増 | 録音、翻訳、撮影、学習など用途が明確 |
| AI感知デバイス | 成交額が20倍 | カメラ、音声、センサーを使った新しい操作 |
| AI眼鏡 | 成交額が3倍 | 撮影、翻訳、音声アシスタント |
| ゲーム用携帯機 | 成交額が150%増 | PCゲームを持ち運べる |
| 専門健康ウォッチ | 成交額が150%増 | 睡眠、心拍、運動、長時間バッテリー |
| 無線通信カメラ | 成交額が70%増 | 配線しにくい屋外や現場の監視 |
| 高級ホームプロジェクター | 成交額が60%増 | 大画面と設置自由度 |
「AIで何でもできる端末」より、何を短縮できるかが一文で説明できる製品のほうが販売へつながっています。
AI眼鏡は普及したのか
AI眼鏡の3倍成長は大きな数字ですが、スマートフォンのような大市場になったという意味ではありません。前年までの販売台数が小さく、新製品とブランドが一斉に増えた影響もあります。
それでも、以前のARグラスとは変化があります。映像を目の前へ表示する機器だけでなく、普通の眼鏡に近い形で写真、動画、音声質問、翻訳を使える製品が増えました。ディスプレイを省き、軽さと電池持ちを優先するモデルもあります。
日本から見る場合、確認すべきなのはAI性能の宣伝より、重量、撮影中の表示、技適、日本語、クラウド料金、眼鏡店でのレンズ交換です。中国版だけの音声サービスに依存するモデルは、日本へ持ってきても強みを使い切れません。
製品ごとの違いは、Ray-Ban Metaと中国AI眼鏡の比較とRokid・INMO・XREALの比較で詳しく整理しています。
最も新しい購入カテゴリはWindowsゲーム機
今回のデータで、日本の読者にも選択肢が広がりそうなのがゲーム用携帯機です。成交額150%増は、Nintendo Switchのような専用ゲーム機だけでなく、Windowsを搭載してSteamなどのPCゲームを動かす携帯PCの拡大を示しています。
中国メーカーは、AMDの高性能APU、大容量メモリ、交換式バッテリー、OLED、USB4などを早く投入します。AYANEO、GPD、OneXPlayerは、大手PCメーカーより製品サイクルが速く、画面サイズやキーボードの有無まで多様です。
ただし、性能を上げるほど本体は重くなり、消費電力と価格も上がります。片手で気軽に遊ぶゲーム機というより、持ち運べる小型ゲーミングPCへ近づいています。日本の正規代理店、初期不良対応、交換部品まで含めて選ぶ必要があります。
健康ウォッチは「毎日充電しない」方向へ
専門健康ウォッチも150%増でした。ここでいう専門性は、医療機器と同じという意味ではなく、睡眠、心拍、血中酸素、ランニング、登山などの測定を重視したウェアラブルを指します。
中国ブランドの強みは、長い電池持ちと幅広い価格帯です。Apple Watchほどアプリを増やせなくても、毎日充電せずに睡眠まで連続して記録できる製品は、健康管理の道具として分かりやすい価値があります。
一方、心電図や血圧などは国・地域によって利用条件が異なります。中国版で使える機能が日本版でも使えるとは限らず、数値を診断の代わりにしてはいけません。測定の継続性を重視するなら、機能数より装着感、電池、アプリの見やすさが重要です。
AI録音機は仕事へ入りやすい
SMZDMの618戦報では、AI眼鏡だけでなくAI学習機とAI録音機の流通額も伸びました。特に録音機は、会議を録る、文字にする、要約するという用途が明確です。
中国ではDingTalkやiFLYTEKのように、録音後の内容を文書、タスク、社内システムへ流す製品が強くなっています。AIをチャット画面で使うのではなく、仕事の入力作業を減らす方向です。
日本で使う場合は、日本語精度だけでなく録音への同意、保存先、無料文字起こし時間、月額料金を確認してください。詳しくはDingTalk A1の解説とAI録音デバイス4機種比較で比較しています。
スマート家電は「AI」の数字をそのまま信じない
京東は、AI電動歯ブラシやAIスマートカップが前年同期比300%増、AI洗濯機やAI冷蔵庫、AIコーヒーマシンなども大きく伸びたと発表しています。
ここは慎重に見る必要があります。家電のAI機能には、センサーによる自動制御、アプリのおすすめ、音声操作、クラウド生成AIまで異なる技術が同じ名前で含まれます。製品名へAIが付いただけで生活が変わるとは限りません。
購入時は「AIを使って何を検知し、どの操作を自動化するのか」を確認するべきです。洗濯物の量に合わせて水量を変える、床の汚れに合わせて洗浄を調整するなど、結果が具体的な機能は評価しやすい一方、会話機能だけでは長く使う理由になりにくいでしょう。
618の数字を見るときの注意点
プラットフォームやメーカーの戦報には、共通する限界があります。
- 成交額、販売台数、注文者数は別の指標
- 「前年比○倍」は前年の母数を示していない場合が多い
- 京東、天猫、抖音では得意カテゴリが異なる
- ブランドが公表する1位は、価格帯や細分類を限定したランキングの場合がある
- 返品、キャンセル、大幅値引き後の利益は見えない
したがって、618の結果は市場全体の厳密なシェアではなく、「消費者が新しく試し始めた用途」を見つける材料として使うのが適切です。
日本から注目するなら何か
2026年の618から日本向けに優先して見るなら、第一はWindowsゲーム用携帯機、第二は仕事用AI録音機、第三は軽量AI眼鏡です。いずれも中国国内だけの住宅設備や教材へ依存せず、用途を日本へ持ち込みやすいからです。
逆に、中国の教育課程に最適化されたAI学習機、220Vと大型設置を前提にした多槽洗濯機、中国限定クラウドへ強く依存する家電は、売れていても日本でそのまま選ぶ製品ではありません。
618で売れたという事実は、購入の結論ではなく調査の入口です。販売の伸び、製品の用途、日本語対応、法規、保証を分けて確認すると、中国で話題の製品から日本でも実用になるものを見つけやすくなります。
参考資料・情報源
メーカー公式情報を中心に、日本語・中国語を含む国内外の資料を照合して構成しています。